現場を行く 視覚障害者への理解いまだ

=現場を行く= 視覚障害者への理解いまだ

2014年10月20日 10時01分

盲導犬と一緒に歩く蓮尾さん。「速く歩けるようになった。盲導犬は大切なパートナー」と話す=佐賀市唐人
盲導犬と一緒に歩く蓮尾さん。「速く歩けるようになった。盲導犬は大切なパートナー」と話す=佐賀市唐人

 埼玉県で7月に盲導犬が刺されけがを負い、9月には全盲の女子高生が蹴られてけがをする事件が起き、佐賀県内にも波紋が広がっている。視覚障害者や支援者は、盲導犬やバリアフリーへの理解が深まってきた中での事件の発生と、それに付随し誤った情報の拡散に落胆する。県内で暮らす視覚障害者と佐賀市内の道を歩きながら、今の思いに触れた。

「かわいそうに。盲導犬は長く生きられんてよ」。3歳の盲導犬と歩いていた蓮尾和敏さん(64)=佐賀市神園=の耳に、皮肉交じりの声が聞こえてきた。刺された盲導犬が声を上げなかった-そんな報道があった直後だった。まるで視覚障害者が犬をいじめているような響き。蓮尾さんは「違うのになあ…って悲しくなりました」と表情を曇らせた。

九州盲導犬協会の事務局によると、盲導犬の平均寿命は約15年。盲導犬は候補犬の時から、バランスの取れた食事管理をしている。盲導犬となった後もユーザーが原則、月1回病院で健康チェックをしている。そのため、家庭で一般に飼われている犬と変わらないか、むしろ長生きという。

ところが、盲導犬が何者かによって傷つけられたニュースをめぐり、著名人が「盲導犬は短命」と誤ったコメントを口にしたため、その情報があっという間に広がった。

蓮尾さんらは、無理強いしストレスをかけているとの誤解にも胸を痛める。候補となる子犬の段階から、成犬となり、実際に盲導犬として活躍できるのは10頭のうち3頭ほど。「人と楽しく歩く犬」と適性が認められた犬だけが、盲導犬となる。「少しずつ盲導犬の認知度が高くなってきたのに、今回の事件で後退してしまったのが悔しい。多くの人に本当のことを知ってほしい」。蓮尾さんは静かに言葉を加えた。

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佐賀市天神の「どん3の森」東側を通る国道264号。土曜日の午後、自転車専用道路と歩行者道路までまたぐ形で自転車4~6列に広がった学生が、佐賀県視覚障害者団体連合会の森きみ子会長(59)=杵島郡江北町=を追い越していった。点字図書館前から続いていた点字ブロックも、不自然な形で100メートルほど途切れたままになっている。

「佐賀市や江北町など自治体によっては、点字を敷設する時、当事者に使い勝手を尋ねてもらえるなど対応が進んだ面もあるんですが…」。点字ブロックを頼りに道を歩く森さんは言う。

だが最近、新たな怖さも感じている。周辺の状況把握能力を著しく落としてしまうスマートフォンの普及だ。「スマホに気を取られているんでしょうね。白杖を使っていることを気づいてもらえないことが増え、ぶつかってしまうんです」。すれ違いざま、イヤホンから漏れ聞こえる音の大きさにも驚く。

点字ブロックの真上に自転車が置かれることは減ってきたものの、点字ブロックそばに自転車や車があるケースは多い。中でも、荷台つきトラックは要注意という。白杖を振っても荷台の下は何もぶつからない。「安全」と判断し直進したところ、体ごとぶつかった。下水道工事現場で通行人を誘導する担当者がいたにもかかわらず、注意喚起はなかった。

「ハード面の改善だけでは十分ではない。道路を歩く人、自転車で通る人、工事関係者、いろんな立場の人に『理解しよう』と思ってもらえたら」。

 

以上、佐賀新聞より転載

記事URL

http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/116485

 

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